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奴隷のオークションに出かけた時のこと。
その日のオス奴隷は、出来が悪いのばっかりで、あたしは何度もがっかり。
5つ星満点の奴隷等級、この日のオスは最高で3つ星どまり。
その3つ星のオスを、あたしは指定する。
名前は、シュン。
とりあえず、からだを、控え室でチェック。
例によって、黒夢占星術、開始。
うーーーむ。うむむぅ。
…このコ、まだ本格調教は足りないみたいだったけれど、からだの「配置」がいいわね。
乳首の間隔、おへそ、ちんちん、アナルの位置関係、陰毛のかたちもグッド。
これは、仕込みかた次第では、4つ星クラスまでは行くはず。
シュンちゃんたら、あたしの指を、かぷ、とくわえながら、そっとあたしと視線を合わせる。
可愛い……ルイなんか喜ぶかもね。
でも、売りものなんだけれど、ね、シュンちゃん。
あたしはシュンのほっぺを下にひっぱって、両目を確かめた。
健康体ね。結構、結構。
はい、じっとして。
シュンちゃんの乳首をつまみながら、あたしは股間に手をまわした。
うーーん、おまえのちんちん、結構いいじゃない、ほーら…よしよし。
中味は、濃いみたいね。
ところが、ちんちんをしごいてみて、あたしは愕然とした。
あらっ!おまえ「腺を切られて」いるじゃないの。
こんなに勃つのに、出ないのね!
……ああぁ……。
あたしの黒夢占星術が、はじめて外れた……。
あたしは、立ち上がった。呼吸が荒くなっているのが自分でもわかった。
突然、このシュンちゃんが、くぅん、とあたしの太腿に顔をすり寄せて、甘えてきた。
「どうしたの?んん?怖いの?」
あたしが乳首をつまみながらあやしてあげると、
シュンちゃんは、あたしの背後に隠れようとする。
あら、どうしたのよ、シュン、こら?
「うふふふふ、あたしが怖いのよ、ネッ!」
突然、控え室の中に踏み込んできた女性がいた。
ああ…あなたは!
外山悦子…さん?Evil League奴隷開発部長の…。
「久しぶりね、ブラック・スモーク」
外山悦子さんが微笑んだ。あたしに黒夢占星術を教えてくれた、外山悦子が。
「悦子さん、お久しぶりです!」
あたしは反射的に姿勢を正していた。
「ブラック・スモーク。相変わらず『SMごっこ』に精が出るじゃないの。あなたにはやっぱり適性があったのよ。昔、あたしが言った通りだった。うふふふふ、あなたは門外不出の黒夢占星術をせっかくマスターしたんですものねぇ」
「……その節は、ありがとう御座いました。でも……」
「でも、何かしら?」
悦子さんは、あたしの太腿のかげでふるえているシュンを指差した。
「こんな奴隷でも、可愛いっていうのかしら?ねぇ、ブラック・スモーク。こいつは性欲がちょっと無節操でね。だから、射精できないように改造してあげたのよ」
「……そうだったんですか」あたしはちょっとシュンが可哀想になった。
「ねぇ、ブラック・スモーク」悦子さんは、少し冷たい口調になった。
「あなた、最近、優しくなったんじゃない?」
「え……?」
「うふふふふふ、昔に比べると、ね。あなた、奴隷に情けをかけるようになったんじゃないのかしら?」
「……そうかも、しれません」
「やっぱり、ねェ」悦子さんはキラリと眼を光らせた。
「あなたは、衰えたのよ、ブラック・スモーク!あたしの眼を誤魔化せると思う?あななの師匠だったあたしの眼を」
「………」
「ふふふ、自覚なさい、ブラック・スモーク……ほらっ!シュン、こっちへおいでッ!」
シュンはおずおずと、悦子さんの方に四つんばいで歩み寄って行った。
「よーしよしよし」悦子さんはシュンの頭を踏みつけ、それから、背中をヒールでガン、と踏みつけた。
シュンは、あぐぅ、とすごいうめき声をあげたが、それには一瞥もくれず、悦子さんは突然、予想外の話を切り出した。
「ブラック・スモーク!あなたに大事な話があります」
Evil Leagueは、実は昨今の不景気で、興行収入が落ち込んでいる。
様々な株式も下落の一途。
収益減を憂慮したEvil Leagueでは、経営改革の一環として、新規の奴隷の長期開発・調教コストを抑え、その分、SM適性の高い「素材」を手際よく確保すると……。
「今はね、オカネや仕事をいくら『待って』いてもダメなの。投資者や消費者に期待するんじゃないのよ。売る側が知恵をしぼって、優れた、新しいものを編み出し、市場を積極的に拡大しながら機敏に富を拡大しないと、ね」 ━━悦子さんは目を細めながら語った。
「つまり、手っ取り早く売れるネタが、欲しいのよ」
それは、確かにそのとおりだけど。
「そこでね、あなた、ねぇブラック・スモーク、あなたにお願いがあるのよ。師匠の頼みとして、聞いてちょうだいね。あなたをネ、わがEvil Leagueのクイーンとして採用したいのよ」
「えっ………!」
Evil Leagueが、あたしを!
なんということ!
これだけは、あってはならないことだった。
ずっと、避けてきた恐怖と邪悪。
けっして踏み込んではならない、人肉ギルドの淫虐資本。
それなのに、よりによって、悦子さんが、こんなこと━━!
「聞きなさい、ブラック・スモーク。あなたはEvil Leagueでもずっと興味の的だったのよ。今まで何回となく、あなたとは対立したこともあったけれど、でもそんなこと拘っているご時世でもないし、ね。うっふふふ、ブラック・スモーク、よく考えなさい。ちからの衰えたあなたがわがEvil
League返り咲き出来るのよ。それからね、近藤麗香も、坂元礼子も、あなたのことを推薦してくれているの。嬉しいでしょ」
いけない、こんなことは…………。
「ねぇ、ブラック・スモーク。あなただって、オス奴隷のちんちん切り落としてみたいでしょ、メス奴隷のからだを変態責めで発狂させたいでしょ?もちろん奴隷なんか何匹でも殺していいのよ、ふふふふふっ。いい申し出だと思うんだけれど?」
あぁ…………。いけない。こんなことは、いけないんだわ。
だけど、もしも……。
もしも、あたしがこの申し出を断れば……
「そうねェ、そしたら残念だけれど、うーん、やっぱり、あなたを奴隷にするしかないわね」
うぬぅっ!Evil League!
なんて、むごいの!?
どこまでも貪欲な饗獣たち。
「よく思案なさい、ブラック・スモーク。あなたにはもう時間が無いのよ、お分かりでしょうけれど。そうでしょ、ね」
夜。遠い遠い物語、それは夜にはじまった。
あのね、都会にも、こんな素敵な丘があるのよ。
あたしは、ひとり、その公園のある丘をのぼった。
ぽつん、と、ひとりきり。
星空を、見あげる。
ほら……あの星座。
あの星の配置が、あれが、あたしの星座。
黒夢占星術の、秘密の星座。
でも、あたしは、もうおしまいなのかも、しれない。
だって、ほら、あそこの星が、
あの赤い星のまたたきが、最近弱くなってきたみたい。
遠い、とおい、はるかに遠いあの星は、
本当はもう、死んでしまったのだろう。
あの光がこの地球に届いているのも、あとわずか…。
そんな気がする。
もう死んでしまった星の、かすかに残った光。
それがこの天空から消失するとき、
あたしの黒夢占星術の星座の一角は、永久に無くなってしまう。
そうしたら、あたしの、ブラック・スモークのちからも、消えていくんだわ。
悦子さん、あなたの眼力は大したものね。
あなたの言うとおり、あたしは、もう衰えている。
おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ、ブラック・スモーク。
黒い煙。
けむりのようなあたしは、本当に存在していたのだろうか。
あたしの存在は、あたしの孤独は、ただの偶然だったのだろうか。
宇宙とは、偶然でしかないのだろうか?
それにもかかわらず、宇宙の全ては常にたったひとつの真実そのものなのだろうか?
あたしの意識も、思いも、みんな定まっていたっていうのか。
そんなあたしの怒りも哀しみも。
偶然にすぎなかったと、どんなに開きなおってみたところで、
この、これは、これが、こんなことが全部あたしの全てだったの━?
あたしは、丘の上を、そぞろ歩きながら、遠くの町並みの灯りを見つめる。
あっちの方角に、星影ルイの家がある。
大好きだったルイ。
すぐに口喧嘩したけれど、すぐに仲直りした。
ムチャで、タフで、さっぱりした性格のルイ。
あたしをいつも結局は許してくれたルイ。
とてもいい友達だった、と思う。
お互いに、これまで、支えあってきた。
さよなら、ルイ。ありがとう、ルイ。
お別れは言えなかったけれど。
セツナ。
あなたには、ずっと、負けっぱなしだった。
どこに居て、何をしているの。
一度も話す機会は無かったけれど、
神出鬼没のあなたのことだから、またいつか、どこかで、
ばったりと会えるかもしれない。
その時も、あたしたちは戦うのかしら。
それとも、助け合うのかしら。
さよなら、賢いセツナ。また会う日まで。
そして、ああ、愛しのコウモリ。
あなたのことを考えていると、
あたしは胸の奥が苦しくなってくる。
もう分かっているんでしょ。
あたしは、あなたを、愛していたのよ。
本当に、愛していた。
あなたは年下のくせに、すごく落ちついていて、マジメだった。
それに、すごい美人なのに、気取っていなかった。
そんなあなたと……あたしは、同じ星の下で……。
ああ……あなたは超能力で、あたしのこころを知っていたくせに、
どうして、あなたは…そんなに…ひどいのッ?
コウモリ。
今のあたしのこころの波長がわかるのなら、
どうか、あたしのことを…かわいそうだ、と思って!
そして、あたしのことを愛していたと、この星空に向かって、そっと、つぶやいてほしい。
コウモリ。
美しいあなたを、ずっと愛していたのよ。
さよなら、コウモリ…
あたしは涙にぬれながら、丘を駆けおりた。こぎれいな公園のベンチで、抱き合う男女、愛の言葉、キス、また、向こうにも。さらに、そこにも、あっちにも愛するふたりが肩よせあって、それは将来?それは人生?それは運命そんなものッ!
あたしは、仲むつまじい男女の吐息を切り裂くように、ひとり、丘を駆け下りた。膝ががくがくして、何度も転びそうになった。
丘の下に停めてあった車に飛び乗るとすぐに発進した。夜景が崩れ始めていた。ワイパーをきゅっきゅっと作動させたが、夜景はいよいよ崩れていく一方だった。
目覚めれば、夕暮のとき。
かなしい、たった一つの世界を、真っ赤な太陽が審判する。
「悦子さん、あなたと勝負するわ!」
あたしは電話口で、息せき切って話し出した。
「それであたしが勝ったら、金輪際あたしにつきまとわないって約束して!どう?Evil Leagueはこの挑戦を断るほどに度量が小さいのかしら?」
これはあたしのとっておきの対抗策。
あたしは悦子さんのからだの配置を知っている。悦子さんの習癖も知っている。
彼女に対してなら、あたしはまだまだ黒夢占星術で優位に立てるはず…。
「ふっふふふふふふ」とつぜん、悦子さんは喉の奥で笑った。
「まあまあ、機転が利く方じゃないの、ブラック・スモーク。さすがは我が教え子ね。うふふふっ。でもねェ、まさか、あたしがあなたと勝負するだなんて、ダメダメ、そううまくはいかないわよ」
しまった!と、あたしは心中でわめいた。
悦子さんの声が、非情に響く。
「そうねぇ…せっかくの勝負なら、あなたの素敵な相手を思いついたわ。ふふっ……Evil Leagueの秘密兵器こと、レイラ・クラプトン女王様よ。ほら、つい先週、代議士の女秘書が全裸の八つ裂き死体で捨てられて話題になったでしょ。あれはね、レイラがやったのよ、犯して、なぶって、ひきちぎり、ふふふふ」
あたしは、息がつまる。
悦子さんの声がはねあがる。
「ホーント、これは楽しみ。もしあなたがレイラに勝ったら、いいわよ、あたしたちはあなたをもう永久に追わないと約束してあげる。でもねェ、もし負けたら、ブラック・スモーク、あなたはEvil
Leagueの奴隷になるの。毎晩、毎晩、サドマダムたちの好餌のつま先につつかれて、クイーンたちにメチャクチャにされるのよ。おんなのからだは全身性器。あなたのからだも狂いもだえて、体液だらだら垂れ流し、他のメス奴隷と地獄の底までまぐわうの。これは受けるわ!儲かるわね!うふふふふっ、さぁ、どうかしら?今度はあなたが答える番よ、ブラック・スモーク!」
「………」
あたしは震えていた。
やっと気力を振り絞って、あたしは承諾した。
夜明け前が、一番暗い。
誰も居ない裏通り、寂しい外灯に青ざめた顔を照らされて、あたしはひとり、運命を待っていた。
通りの反対側から、一人の巨躯の女性が歩みよってくる。
奴隷犬、全裸のシュンを鈍く光る鎖でぐいぐい引きずりながら。
うむっ。
彼女が、Evil Leagueの切り札、レイラ・クラプトン!
人肉蹂躙の筋肉は、奴隷をなぶるパワーむんむん。
サディスティック・サイボーグか。
一目で、わかる。この女は、強い!いままで見てきた、どのクイーンよりも。
あたしは、最後のたたかいに、挑む。
さぁ!今こそ、知恵を、ひらめきを!
たとえ、あたしのブラック・スモークの淫靡なちからが、最後のほとばしりののち、消えて無くなってしまうとしても。
やがて昇るはずの朝日を顔いっぱいに浴びながら、これからもずっと、一人の女として愛の都会を闊歩するために。
おわり
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