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レイコとシンジー夏合宿 後編ー
打ち上げが終わった食堂の後片付け、掃除を一人でやらされた信次が漸く一息ついた時は、既に9時を回っていた。今までの組手のダメージだけでもかなりのものだったが、今日の試合で朝子に与えられたダメージはひどかった。足ビンタを散々に食らった顔はズキズキと痛んだし、たっぷりと蹴られた腿やふくらはぎは青黒く腫れあがり、びっこをひきながらでないと歩けないほどだった。まともに何発もの正拳突きを入れられた腹は今でも痛く、肋骨にヒビ程度は入っていそうだった。とどめのかかと落しは特に痛かった。完全に脳震盪を起こし、白目を剥いて気絶してしまった信次が目覚めたのは、玲子にバケツで水を頭から思いっきり浴びせられたときだった。大分時間が経った今でも、未だなんとなく頭がクラクラしていた。
肉体的なダメージは確かにひどかった。だが、信次をより深く苛んでいたのは精神的なダメージだった。組手はまだ、練習という美名に隠れ、基本的に自分は受手側を演じているんだ、との言訳で自分の弱さに目をつぶることもできた。だが、今日は言い訳なしの試合だった。どう言い繕おうと、自分が全力で戦った、ということは当の信次自身には十分に分かっていた。玲子に負ける、というのともまた違った屈辱だった。玲子は自分より身長も高いし、何より、子供の頃から空手をずっと練習している、いわばその道のプロだ。負けても仕方がない、別に自分じゃなくても、玲子に勝てる男なんて殆どいないさ、俺が弱いわけじゃないんだよ・・・と自分を慰めることができた。
だが、朝子は違う。自分より10センチも背が低く、体重もずっと軽く、見るからに非力な朝子に手もなくひねられた。どんなに自分が必死の力を振り絞っても、朝子に一撃、たった一撃を入れることさえかなわなかった。朝子の突きも蹴りも、信次にとっては目にも止まらぬ速さだった。それどころか、朝子の動きすら、信次には殆ど対応不能な速さだった。あと100回やっても、絶対に勝ち目はない。いや、例え信次が必死で本格的に空手の修行をしても、到底朝子に追いつけるとは思えなかった。言い訳のしようがない、これ以上ない位、完璧な負け方だった。しかも、朝子が空手を始めたのは自分と同じく、聖華に入学してからだ。僅かこれだけの期間で、決定的な、永久に埋めようのない差をつけられてしまった。あんな小さな、細い女の子に。自分がその負けを認めてしまっていることが、信次を余計に傷つけていた。朝子だけではない。真弓、里美、美砂子、志津子、奈々絵といった他の1年部員の、誰と試合をしても絶対に勝てそうになかった。相手は女の子だというのに、誰にも勝てない。と、いうことはみんなが強いんじゃない。要するに、自分が並外れて弱いんだ。その事実が、信次の僅かなプライドをズタズタに引き裂いていた。
「つかれた・・・」つぶやきながら、信次はとぼとぼと、びっこを引きながらあてがわれていた部屋に引き上げようとした。一応、唯一の男ということで個室を与えられていたのが無上の幸せだった。ねむりたい・・・何も考えずにねむりたい・・・ねむっている間だけは、なにもかんがえなくてもいいもんな・・・信次が部屋に近づいた時、不意に1年生部員が泊まっている部屋のドアが開き、里美が顔を出した。
「あ、信次、やっと片付け終わったの?遅いじゃない!何遊んでたのよ、みんな待ちくたびれてるわよ!」「そ・そんな・・・遅いだなんて・・だって片付けしたのは僕一人だし・・・」昼食までは一応、対等に近い話し方をしていた里美にも、ついつい信次はおどおどとしか話せなくなっていた。「あー、もう言訳はいいから、早くこっち来て!!」(そ・そんな・・・未だ終わりじゃないの???)「で・でも・・・今日はもう遅いし・・・おねがい・・・もう許して、もう疲れて眠くてどうしようもないんだ・・・」返事はなかった。里美はいきなり信次の左耳をつかむと、力任せにそのまま部屋に引きずり込んだ。
「はーい、みんな、お待ちかね、今夜の主役のご登場よ!」里美に耳を引っ張られ、信次は二列に並んだベッドの真中、玲子たちがベッドに腰掛け、車座になっている真中に引きずり倒された。「い、いて、いて、痛、たたた!」悲鳴をあげながら信次が床に倒れこむと、ドッと笑い声があがった。「相変わらず情けない声ねー」「ねえ、あひるみたいなそのヨチヨチ歩き、何とかなんないの?」「それにしても、信次ってほ・ん・と・う・に・!!!弱いねえ。男のなかで、って言うより、女の子も含めて、私が一生に会った中で最弱じゃないの?」「今ごろ、合気道部も合宿でしょ?あっちでは慎治がこうやって苛められてたりしてね。」「あ、今度、こいつら二人で最弱決定戦やらせてみようか!?」 多少アルコールも入り、テンションがあがった玲子たちは、際限なく信次をからかい続けた。余りの侮辱に信次は肩をふるわせながら、必死で耐えていた。そのポーズが、余計に玲子たちのいじめ心をそそった。
ひとしきり盛り上がったところで、朝子が隣にいた玲子に声をかけた。「ねえ、玲子。ちょっとこいつ借りていい?覚えているかも知れないけど、私、入学当初にこいつにちょっかいかけられたことがあったのよね。その後玲子たちに苛められてたから、かわいそうと思って許してやってたけど、こんな根性なしなら、話は別よ!こんな腐った奴におちょくられてたなんて、あーっむかっ腹がたつ!!」「もちろん、OKよ。朝子の頼みをいや、というわけないじゃん!好きなだけ遊んでいいわよ。煮るなり焼くなり、好きにしていいわ。」玲子は内心、驚いていた。あの内気で大人しい朝子が苛めたい、だなんて。やっぱり、あれだけ思いっきり蹴りまくって、朝子もふっきれたのかな?どうやって料理してくれるか、楽しみ・・・
「信次、正座!」のろのろと自分の前に正座した信次を見下ろすと、朝子はゆっくりと足を組み、右足の爪先を突き出した。「信次のことを一杯蹴っ飛ばしてあげたから、すっかり疲れちゃった。どうしてくれるの?」「あ、す、すいません・・・」殆ど反射的に、信次は朝子の脚を押し頂くようにしながら、マッサージし始めた。「ねえ、自分の顔を思いっきり蹴飛ばした足をマッサージするのって、どんな気分?悔しいとか、恥ずかしいって言う言葉は信次の辞書にはないの?」朝子はたっぷりと足をマッサージさせながら、からかい続けた。「あーあ、こんな意気地なしに触られてたら、脚が腐っちゃう。」朝子の言葉に、漸く解放された、と思った信次は下を向きながら手を休めた。と、ついっと顎が持ち上げられた。目の前に朝子の脚がすっと伸びていた。足で顔を操られている、といった屈辱は、もはや感じる余裕もなかった。朝子が何をさせるつもりか、その恐怖が遥かに大きかった。(お願いだから、もう蹴らないで・・・)
「信次、あんたの汚い顔を蹴って汚れちゃったのよ。きれいにしてくれる?」目の前に朝子の爪先が突き出されていた。まさか、舐めろ、なんていうつもりじゃ?信次は驚いたように顔を上げ、朝子を仰ぎ見た。朝子は信次のことを黙ったまま、大きな目でじっと見つめていた。朝子の爪先が苛立たしげにピクッと動いた。その僅かな動きだけで、信次を怯えさせるには十分だった。信次は意を決したように、震える手で朝子の足を押し頂き、爪先を口に入れ、ゆっくりと舐め始めた。「やだ、信じられない!」「よく、堂々と舐められるわねー」里美たちが呆れたように囃し立てた。信次は浴びせ掛けられる侮蔑に必死で耐えながら舐めつづけた。「信次、分かる?私の足、信次の足よりずっと小さいでしょ?この足に信次はたっぷりと蹴られたんだよ?分かってる?ねえ、こんな小さい足にもかなわなかったんだよ?」朝子に言われるまでもなく、信次も十分に分かっていた。朝子の足は22.5センチしかない、女の子にしてもかなり小さい足だった。だが、昼間の試合ではこの足に信次はいいように弄ばれた。この小さい足、細い脚から繰り出される蹴りに全く反応できなかった。「こんな小さい足の子にも俺はかなわなかったのか・・・」朝子は爪先をグイッと更に深く、信次の口中に押し入れた。「もっとしっかり舐めてよ?」勝ち誇ったよう朝子に命令されても、信次に逆らう気力はなかった。朝子の足の指を一本一本、舐めていった。指の上も下も、指と指の間も。ざらつくような、少し塩辛いような味がした。(女の子の足指の味を味合わされている・・・)それだけでも十分な屈辱だった。
「よく恥ずかしげもなく舐めていられるねえ。いい加減にしてくれない?あたしの足が信次のよだれでべとべとじゃないの!」信次は思わず、朝子に抗議の視線を向けた。(ひ、ひどい・・・人に無理矢理舐めさせておいて・・・)だが、言葉は発することさえできなかった
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