

「せい子もやってみたらどう?」
4人のうち、せい子の大学時代の同級生がそう切り出し、他の3人も賛成した。それまで孝一の頭の方に立ってゲームの状況を見ていたせい子は、孝一を見下ろすと、その目で孝一の目を捕らえた。少しの間そうやって孝一を見据えた後、せい子はゆっくりと唇をすぼめ、孝一の目を見据えたまま、少量のツバを細い糸のように孝一の口に垂らした。
孝一は口でせい子のツバを受け止めながらも、目はせい子から逸らすことはなかった。
以心伝心。一心同体。孝一は、短い時間の中でせい子が目で孝一に対して何を言おうとしているのかをすぐに察することができた。そして、せい子に対し、目で自分の希望と決意を伝えた。
せい子は、オレンジジュースをゆっくりと口に含み、口全体にそれを染み透らせるかのようにゆっくりと飲み込むと、4人がツバを飛ばすために立っていたラインと同じ場所に立ち、両手を腰に当てた。
せい子はツバが口じゅうに湧いてくるのを待った。
孝一は、飛んでくるせい子のツバをぺニスで受け止めるべく、せい子によるこれまでの調教を思い出し、自ら興奮と被虐心を高めながら、短いながらもぺニスを膨張させ、その状態を維持し、ツバを受け止める準備をした。
両手を腰に当てていたせい子が、やがてゆっくりと、その芸術的な形の良さを持つ唇をすぼめ始めた。
天板の上に張り付けにされている孝一は、全身に力を入れて身構えた。
4人は固唾を飲んでせい子と孝一を見守った。
「・・・ぺッ!」
ツバを吐き飛ばした勢いの音と同時に、せい子のツバが孝一の下腹部を目指して、空中に、まっすぐからやがて緩やかな下降線を描く矢のような放物線を描いた。
描かれた放物線の先端は、そそり立っている孝一のぺニスのほんのわずか上に落ちようとしていた。
本当に、ほんの、ごくわずか、長さでいうと1センチメートルに満たない程度のごくわずか上の辺りへ落ちようとしていた。
天板に張り付けにされている孝一は首だけを持ち上げ、被虐による快感と興奮によってそそり立っているぺニスを、せい子のツバの塊が飛んでくるタイミングに合わせて上に引っ張り上げるべく、せい子のことを想いながら、せい子への崇拝を心の中で誓いながら、ぺニスでせい子のツバを受け止めるべく竿全体に力を入れた。せい子のことを想うとどんなときでも孝一のぺニスは条件反射のごとく精一杯そそり立つのだった。
「ぺチャッ!」
せい子のツバは、皮が剥けかけ亀頭をほんの少しだけ露出させてそそり立っている孝一の情けないぺニスの、本当にその先端、つまり亀頭の部分と、そこから後ろ、竿の裏の上の方の辺り一帯に見事に命中した。
生暖かいせい子のツバの感触に興奮したぺニスは亀頭を少しだけ露出させたまま、上に下に大きくヒクヒクと揺れた。
ぺニスの裏側を中心にせい子のツバがゆっくりと落ちるように流れ始め、孝一のぺニスの亀頭の一部と先端の裏側の方をせい子のツバが、せい子の分身として孝一を征服しに来たかのような風情でゆっくりゆっくりと流れ落ち、じわじわと孝一のぺニスを覆っていった。
見ていた4人から歓声が上がった。
せい子はゆっくりと孝一に近づき、ローテーブルの天板の下側のコーナーふたつにそれぞれ一本ずつ縛りつけられている孝一の両足のちょうど真ん中辺りに立つと、腰に手を当てた仁王立ちの姿勢で、まず、正面の斜め前方に見えている、せい子のツバがゆっくりとその全体を覆いつつある孝一のぺニスを見た。
そして、次にやはり斜め前方に見えている孝一の顔を見て、孝一の目を捕らえた。
しかし、せい子の表情はツバを吐き飛ばす前の表情とは違い、とても満足気なものだった。
やがて、せい子は孝一に向かって、声は出さずにゆっくりと表情だけで会心の笑みを浮かべた。
視線をせい子に捕らえられた孝一は、視線はせい子に捕らえられたままゆっくりと顔を上げ、縛りつけられたまま、せい子を見上げ、せい子の満足気な笑顔にほっとすると同時に、孝一自身もせい子に満足してもらえたことから生じる満足感とせい子のツバ責めによる快感とに浸っていた。
せい子はゆっくりと孝一に近づき、孝一の両手両足をテーブルの脚に縛りつけているロープのうち、右手を縛りつけているロープだけを解くと、孝一の頭部の右側に立ち、孝一を見下ろし、孝一の目を見据えながら、息を吸い込みゆっくりと唇をすぼめ、孝一の顔面めがけて勢い良く「ぺッ!」とツバを吐きかけた。
せい子が孝一に対しその右手を自由に使えるように解放した時点で孝一はせい子が自分に求めていることを察していたが、この顔面ツバ責めにより、せい子の自分に対する要求が何であるかを確信した。
右手を除いた各手足がローテーブルに縛り付けられたままの状態の孝一は顔面に吐きかけられたせい子のツバの香りに恍惚としながら、視線の定まらない表情のまま、右手をゆっくりと自分の下腹部の方へと伸ばしていった。
そして、つい先ほどその短小ながらも精一杯の膨張をもってせい子のツバを受け止め、今だその快感を忘れられずに膨張を続けている、せい子のツバに包まれたままの自らの仮性包けいを右手の三本の指で摘まむと、ゆっくりゆっくりしごき始めた。
そして、しごき始めると同時に、恍惚とした精神の中意識しなくてもごく自然に自分自身の内側から止めどなく溢れ出てくるせい子に対する想いと決意を言葉にした。
孝一にとって、せい子以外の人間がいることなど、もう、どうでもいいことだった。たとえせい子以外の誰がいようと、何人の人間がいようと、せい子の前では、孝一は恥も外聞もなく自分の本心に従った行動をとるのみだった。
自分の肉体と精神の全てが自らの意思で永遠の忠誠と絶対服従と崇拝を誓ったせい子の前では、たいして尊くもない孝一の理性や何の値打ちもない嘘の飾りに等しい孝一の人間としての誇りや見栄など、これまでの調教を通してすべて剥ぎ取られていた。
自らその分身をしごくことを強制され、ゆっくりとその動作を繰り返しながらせい子への忠誠と絶対服従を誓う孝一の声は、言い始めは消え入りそうな震えるような声だったが、自分の想いを言葉にしているうちにだんだんと声は大きくはっきりとしたものになっていった。
「せい子女王さまァ~・・・・私は生涯せい子女王様の所有物、せい子女王様の玩具、せい子女王様の奴隷です・・・せい子女王様と出会った高校時代から、私にとってせい子女王様は教師というありふれた人間としての存在ではでなく何よりも尊くどんな存在よりも高貴な崇拝の対象でした・・・どうかせい子女王様のそばで一生せい子女王様を崇拝させてください・・・・せい子女王様の肉体、精神、いや、その存在全ては私を弄ぶために存在しているものなのです・・・せい子女王様の両手はわたしを身体のいたるところを情け容赦無く責めるためにあるもので、私を縛り上げるためにあるものです・・・せい子女王様の両手が握りこぶしになった時は私はサンドバッグになります・・・・せい子女王様のおみ脚は私を平伏させ、私を踏み付け、私を挟み込み、私に絶対服従を強いるためにあるものです・・・せい子女王様のお尻は私を黙らせ、私を潰し、私の息の根を止めるためにあるものです・・・・せい子女王様の唇は私を罵り、狂わせるためにあるものです、せい子女王様のツバは私を清め、辱めるためにあるもので、一滴残らずすべて私に吐きかけるためにあるもの、私の本性を導き出し、私を底辺まで落ち果てさせるためにあるものです・・・・せい子女王様の目は私を辱め、命じ、支配と拘束を強いるためにあるものです・・・・私という存在は、せい子女王様からいじめられ、いたぶられ、辱められ、弄ばれ、犯され、服従を強いられせい子女王様に心の底から御満足いただけるまで生涯に渡ってご奉仕申し上げることだけをその存在意義としてにこの世に生を授かった物体です・・・・ですから、せい子女王様が満足されるまでご奉仕申し上げることは私にとっては何にも変えがたい嬉しいことで、せい子女王様にご満足いただけることは私にとっての真の幸福です・・・・ああ、せい子女王様、私は心の底から自らの意思で、本心として強く希望します・・・どうか、どうか生涯に渡って私を支配し、拘束し、調教し、崇拝させてください・・・・」
「ミスト」の開校記念パーティーは、いつしか、こうなることを宿命付けられていたせい子と孝一が、女王と奴隷、支配者と被支配者、所有者と玩具という永遠に契約が終了することのない奴隷契約を締結した二人の“結婚披露宴”ならぬ“契約締結披露宴”の様相を呈していた。
この場に立ち合ったせい子を除く女性サディスト4名は、人前結婚式の参列者のごとく、まさに立ち合い人としてふたりの強固な関係、そしてふたりがお互いに自己に偽ることなくその本心から交わした支配と服従を内容として構成されている契約が永遠に終了することがないということを確認し、そして、その証人となった。
その後、このパーティーは、せい子が孝一を玩具として他の4人に提供したことによる余興によって“ミストレスの集い”に趣きを変えていた。
余興の中で4人の玩具として弄ばれて恍惚の表情を浮かべている孝一を眺めながらせい子は、一度はチャンスを逃がしてしまった孝一との出会いの頃を思い出し、運命付けられていた孝一との再会、孝一からの告白、その本心からの真摯な奴隷志願、心理面での征服から始まった様々な調教、今日までの拘束と支配といったこれまでの数々の場面を漠然と思い返していた。
そして、支配欲、征服欲の塊である天性のサディストせい子の止まるところを知らない加虐心を満足・充実させることだけを目的としたふたりの関係がこれからは途切れることなく永遠に続いていく宿命であったことに対する満足と喜びを全身で感じていた。
加虐の満足と充実感から生じる喜びに満ち溢れたせい子の赤い唇がキラリと輝いた。
その金属的な艶のある輝きは他のどんな高貴な芸術ですら足元にも及ばないほど美しいものであった・・・・。
(せい子・最終話・完)